学生オリジナル脚本による演劇発表会行われる

「不安」を必死になって乗り越えた彼らは、実に清々しい顔をしていた。

 

 

3回目となった淑徳大学人文学部表現学科平成28年度演劇成果発表会を今年も楽しみにして観た。新指導者に山下悟先生が着任した。彼は演劇集団「円」で長い間、舞台演出家として指揮を執り、木村光一氏が代表をつとめていた「地人会」でも演出を担当したベテランである。過去2回と大きく変わった点が2点ある。

1.発表会が過去2回は年をまたいだ1月開催だったが、今年は年内12月23日だった。山下先生曰く「年末年始で2週間空くと、心も体も緊張感が無くなる。よって一気に年末勝負です」まさに、鉄は熱いうちに打て。

2.過去2回の会場が、1号館アリーナ(体育館)だった。今年は7号館3F731教室に変更された。適度な空間(客席100)になって、よりセリフが通り、役者の表情が見えた。

2016年12月23日(祝)快晴。さわやかな青空が広がった。気温19度。冬のこの時期にしては「暑い」くらいだ。

淑徳大学東京キャンパス7号館3F731教室にて14時から17時まで3クラス6つの出し物が演じられた。開場は13時30分。

私は会場に13時15分に着いた。教室のガラス窓越しに中を見た。最後のリハーサルに、学生達は真剣だ。セリフ・動きのチェック、大道具の出し入れ、更には「お客様への挨拶のネタ仕込み」等々。緊張感がそこかしこに漂っていた。

13時30分開場。学生たちの友人、先輩たち、それに家族の皆様方が席に着いた。

私は、山下先生にご挨拶並びに、今回の出し物についての取材をした。
山下先生「学生も1年生。私もここに来たという点では1年生です。みんなで何ができるのか。何をやりたいのか。はじめは中々意見がまとまらなかったが、試行錯誤しながら今日の本番を迎えられた。本番はプロだって不安です。まして学生はほとんどが初めての体験で、不安なのは当たり前。その不安を自分で体験するのもいい勉強になります。彼らの良いところは逃げていないのです。不安ながら挑戦しています。頭だけでモノゴト、分かったつもりでも本質は理解できません。頭と体を全て使っていよいよ本番です」

そう話す山下先生の目が優しい、ニコニコしながら話された。演出家としての長い経験値と多くの役者に会いその人に合うべくいろんな指導法を試して来たベテランの持つ懐の深さに感激した。

私は続けた。「今回の6つの出し物に付いて、お聞かせ気ください」

山下先生「6作品すべて学生のオリジナル脚本です。しかも6グループ内で3~4本の脚本が出て来て、学生たちの選考を経て公演する1作品をそれぞれのグループが決めました。学生同士のコミュニケーションを経てみんなが納得して演目を決め、キャスティングしています。この作業をやることが一番大切です。6作品に共通しているのは、私も驚いたんですが、それぞれ〖自分の事、家族の事を肯定的に描いている〗この点です。今どきの学生は自分勝手と言われそうですが、みんなが選んだ作品、作り上げた舞台はそんなステレオタイプな一般論から派生するモノではなかったんです。どうぞ楽しんで観て行って下さい」

学生の主体性を全面に出していく山下演出。

渡辺徹客員教授が席に着いた。

14時開演。

3時間に及ぶ公演を終えた後、渡辺先生からそれぞれの公演に対して講評がなされた。

 

第一公演 Aクラス➀「珈琲談話~coffeetalk~」(30分)
「死を正面からとらえ家族愛を丁寧に描いた力作。涙を誘う。」

 

第二公演 Aクラス②「仁義なき脚本作り」(15分)
「面白いコント。笑いも取れた」

 

第三公演 Bクラス➀「リアリティー」(25分)
「練られたサスペンス。着想がいい」

 

第四公演 Bクラス②「人生進級テスト」(45分)
「見応えある大作。インパクト大。明確な言葉があった」 *A4裏表使用で25枚の脚本

 

第五公演 Cクラス➀「或る女の一生」(20分)
「初めての毛色の作品。古いタイプだが新鮮」 *太宰治文学への憧れを感じる

 

第六公演 Cクラス②「信頼銀行」(30分)「着想面白い。展開豊か」

 

さらに渡辺徹客員教授から、総評が話された。
「映画やテレビを見ていると演技は簡単そうに見えるが、いざ自分がやってみるとセリフ一つでも、如何に大変か分かる。怖いけどやってみること。今日こうやって皆さんはやってみた。何故演劇なのか。コミュニケーションを経てみんなで、作り上げていく。ゼロから作っていく過程が大事。緊張もするが、その緊張がいつのまにか爽快感に変わっていく。それが自信につながる。勇気、集中力、想像力、そして羞恥心を捨てる。まず、やってみること。そこから自分を変えて行きましょう。今日皆さんが一歩踏み出したことを高く評価します。お疲れ様でした。」

 

 

17時閉演

表現学科1年生が全員参加して行われた演劇発表会。挑戦したものだけに許される「充実感」という満足感の中、黙々と後片付けに入る学生達。

日中の暑さはもう外にない。戦い終わって日が暮れて、また寒くなってきた。これからの人生で自分との戦いは、まだまだ続く。
1年生の皆さん、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。 

 
人文学部表現学科教授 松永二三男 

2021年10月

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