2021年2月アーカイブ

<プログラム名称>

「復興支援ボランティアによる体験型学修および対人臨床への導入的アプローチ(福島県いわき市:多世代広場事業における協働的学び)」 

*東京キャンパスボランティアセンター、淑徳大学短期大学部こども学科 *父母の会協賛による共生体験。

 

<場所>福島県いわき市:NPO法人いわき緊急サポート主催「すくのび広場」

 

<実施概要>

実施概要

起案者は震災の翌年(2012年4月)より四年間福島県内の指定保育士養成施設に勤務し、震災後の被災地での保育士養成に、地域貢献に携わってきた。文部省科学研究調査費(基盤研究C)も三年間取得し、本学淑徳大学短期大学部に異動後も「福島県いわき市における幼児の発達支援と保護者支援に関する臨床的研究」(文部省科学研究調査費:基盤研究C 平成28年度~30年)として継続研究を行ってきている。また、その過程で地域の子育て、親支援に従事する保育所・幼稚園、NPOの方々と継続的な関係を持ち、復興への共同作業者として参与してきた。今般のコロナ禍により2020年度は実施できなかったが今年一回目の緊急事態宣言が発出される直前の2020年2月半ば(平成28年~令和元年度)まで夏、冬の年2回以上計9回、継続的に実施してきた。

 本プログラムは、被災地で復興に献身的に従事するNPO「いわき緊急サポートセンター」(前澤由美代表)と連携し、市内の百貨店の一角にて行われている子育て支援:「すくのび広場」にて子育て・保護者支援のボランティアとして参加することを中心に実施してきた。震災後5年余~10余年が経つ福島県内の実情を実際の体験によって知り、復興に寄与するNPOの方々、親子と実際にかかわる中で学生のコミュニケーションの質的向上の場、対人臨床・支援職への導入的な経験の機会とするものであった。

参加学生は特に短期大学部初年次をメインとするものであり、短大入学後、学年後半から保育実習、教育実習に臨む前の段階で、対人臨床の基礎および多様なコミュニケーションを直接の対話と体験によって身に付けること、震災直後の避難所から始まった「多世代広場」「子育て支援」広場の実情と震災からの復興の現状についても理解し、福祉と教育、障害や子育て支援に関しても視野を広げる総合的な学びの提供の場として企画された。また、コミュニケーションや対人関係に課題のある学生、対人関係で難しさを抱える学生にも積極的に声をかけ、特に短期大学部では少数派の男子学生にとって主体的でアクティブな学びの場となることも見込んだ。

 

<実施の目的と内容>

・学生には被災地の現状と支援の実際に触れることを通して、以下の事項に関して経験的に学び、過去の支援の経緯を理解するとともに今後の継続的な支援の必要性を実感することを目的とした。

・いわき緊急サポートセンター:前澤代表から福島県の子育て支援・サポートの経緯と実際についてレクチャーを受け、福島県いわき市の子ども・保護者とかかわり、子育て支援の実情について理解する。

・いわき市内の保育の現実に「実際にかかわる」ことで、体験的な学びとする。

・福島県いわき市にて東日本大震災直後から避難所として始まり、今も継続的に行われている避難者                                         および市内の保護者とこどもの支援、障碍者・祖父母の居場所としての総合的広場事業のサポートなど                                            復興支援ボランティアを経験。1泊2日で乳幼児、その祖父母・保護者、障碍児者と交流。                                           

・特に子育て中の親御(父母両方)さんと話し、関わり、遊び、環境整備などを経験した。市内在住の看                                             

護士、保育士、地元の学生(フラガール)、手話落語家:噺亭スコッチ氏とも交流。

・震災以降24時間体制で地域の緊急の子育て(病児・病後児保育と預かりなども)支援を行っているNOP法人いわき緊急サポートの前澤代表、スタッフからも講話、様々な事例などについても訊き、震災後の復興の中で生じてきている課題やコミュニティ、福祉・教育の問題についても体験的理解を深めた。

 

<参加実績>

平成28年9月1 ~ 2日  参加学生7名        平成29年2月24~25日  参加学生3名

平成29年8月30~31日   参加学生13 名     平成30年2月25~26日 参加学生3名

平成30年9月2 ~ 3日   参加学生12名      平成30年12月 1~ 2日  参加学生7名

平成31年2月24~25日  参加学生7名     令和元年 9月 1~ 2日  参加学生13名

令和2年2月14日~15日 参加学生8名   

 

※詳細については平成28年度~令和元年度「ボランティアニュース」にて体験記、報告を毎年おこなっている。

※淑徳大学短期大学部父母の会から、学生の旅費・宿泊費等の手厚い補助を得て毎年実施されている。

以下は初年度第1回、三年目第5回参加学生の感想である。

 

(第一回:参加学生のコメント)

◆いわき市駅前の量販店の四階の一角で震災直後から始められ、今も多くの様々な年齢の子どもとその親御さんが集まる「すくのび広場」に2日間ボランティアに行きました。9月の平日にもかかわらず、多くの子どもが来ることに驚きました。しかし、そのお陰で多くの乳幼児と実際にかかわり、学ぶことができました。子どもたちと遊ぶほかにも、手遊びや絵本の読み聞かせ、製作などの準備、朝の掃除や終了時の片付けなど様々な体験をしました。

実習とは異なり保護者の方と話す機会も多く、貴重な話を聞くことができました。どの保護者も「子育ては大変だけど充実している」、「このような子どもを安心して遊ばせられる広場があることがありがたい」とも言われていました。それらの言葉を聞き、自分自身、保育所や幼稚園でも保護者の声を聞き、保護者のニーズに少しでも応えることが子どものことを考える上で大切なことだと気づくことができました。

 

◆私は、福島県いわき市のNPO法人「いわき緊急サポートセンター」が行っている「すくのび広場」でのボランティアに参加して来ました。東日本大震災から約五年が経ち、いわき駅周辺の再整備された街並みなどの様子からは五年前に大きな災害があったとは思えませんでした。しかし、復興は進んでいても被災した方々の記憶には当時の悲しみが残っていると感じました。今回のボランティアでは、子どもたちと一緒にボール遊びをしたり季節のカードを製作したりしました。初めは、私も子どもたちも緊張していてなかなか話してくれませんでしたが、慣れてくると子どもたちからいろいろ問いかけてくれるようになり嬉しかったです。一歳の子どもを持つ保護者の方から「遠くから来てくれてありがとう」と励ましの言葉をかけて下さり、このボランティアに参加してよかったと思いました。これからも様々なボランティアに積極的に参加していきたいと思います。

 

(第5回 参加学生のコメント)

◆私は今回、福島での復興ボランティアに参加して実習では経験出来ないことを学べたような気がします。「すくのび広場」では子どもと関わるのはもちろん、保護者からお話を聞くことができ、地域の方々ともお話が出来る環境が整っていました。今回は実習前に参加したこともあり、子どもと上手く接せるかなど不安がいっぱいだったのですが、「広場」の子どもたちはとても元気で、一緒に遊んでいた子とお別れする際には泣かれてしまうほど仲よく遊べました。改めて「子どもと関わる職業に就きたい」と思うことができ、いい体験ができたと思っています。すくのび広場に来ている親子の中には外国から来た親子もいて、日本との子育て環境の違いなどのお話を聞くことが出来ました。ボランティアを通じて改めて感じたこと、話を聞いて納得したこと、手遊びや絵本の読み聞かせを実際に行ったこと等、この度の経験で得たことを実習や将来に向けて活かしていきたいと思います。

 

◆今回、いわき市の「すくのび広場」でのボランティアに参加し、たくさんの保護者や子どもたちかかわることができました。ボランティアに行く前は、子どもや保護者ばかりだろうと思っていましたが、年輩の方も来られていて、この「広場」は震災後、思い切り遊べない子どもや保護者だけではなく、高齢者にも集いの場となっていることを実感しました。また、今回のボランティアで私は手遊びやフラダンス、絵本の読み聞かせ等もおこないました。子どもたちが楽しく真剣に取り組んでいたため一緒におこなう私の方も楽しくできました。

今回のボランティアを通じて、今後の世の中には子どもや保護者、高齢者が安心して身を置ける環境の大切さを感じました。これから保育者等、人と関わる仕事に就く私たちがこういった環境を増やしていくことが大切だと感じました。そしてそのために勉学を積んでいき理解を深めていくことが大事だと思っています。

 

尚、本プログラムは 科研費「福島県いわき市における震災後の保育の現状と課題」(研究課題/領域番号25381109 基盤研究(C) 2013~2015年 研究代表者:前正七生)からの継続研究である「福島県いわき市における幼児の発達支援と保護者支援に関する臨床的研究」(研究課題/領域番16K12389基盤研究(C) 2016~2019年 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K12389/ )において、震災後十余年までの被災地の保育、幼児教育と保育者養成の実情、コミュニティーにおける新規かつ継続的な課題を可視化した研究と連動するものでもある。

一連の研究とプログラムは震災からの復興を被災地の「内と外」の両視点、共に歩む協働として考え、「現在進行形の」支援としての連携を構築することを目的とするものである。同時に、「被災地外部」の人間にとっても、身体を通した自らの言葉として語り続けることが、来たる「少子高齢」「多文化共生」「多様性」を受容する社会のヒント、モデルとなり得ると考えている。※現在も震災後10年に連なる継続研究として科研費(基盤研究C)を申請中である。

すくのび広場

<関連する研究成果等>

[雑誌論文]

・ 「 震災後のいわき市における子どもの発達支援・親支援の実際と多世代交流広場の展開 ―震災後10年に連なる臨床的な「語り」へのアプローチ」2019

著者名/発表者名 前正七生 雑誌名 淑徳大学短期大学部紀要 巻: 59号 ページ: 102-111

 

・「 震災後の保護者支援、発達支援の現状と課題 -”場”と”育ち”の語りを中心に 2018

著者名/発表者名 前正七生 雑誌名 淑徳大学短期大学部紀要 巻: 第58号 ページ: 117-127

 

 ・「 「主体性」と思考を育む震災後の保育士養成への試み  ―養成課程における科目編成とルーブリックの可能性―」 2017

著者名/発表者名橋浦孝明(いわき短期大学)、前正七生(淑徳大学短期大学部) 雑誌名 『いわき

短期大学紀要』 第50号  巻: 第50号 ページ: 25-44 査読あり / 謝辞記載あり

 

・「幼小連携を意識する「新たな」教育課程の現状と課題 -養成教育からみたコンピテンシーベースの新学力・子ども観による評価可能性―」 2017

著者名/発表者名前正七生 雑誌名 『淑徳大学短期大学部紀要』 巻: 第56号 ページ: 15-40

 

 

東日本大震災復興支援学習いわき合宿まとめ(鏡ゼミケーススタディ)

 鏡ゼミケーススタディは、2013年から毎年東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県いわき市を訪れ、NPO勿来まちづくりサポートセンターの活動を中心に、現地の震災復興とボランティア活動の状況を調査した。

2020年は11月14・15日、千葉キャンパス合宿等のガイドラインに従っていわき合宿を行った。

 

2013年

いわき合宿

いわき合宿

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東日本大震災及び東京電力福島原子力発電所による事故で被災した地域の今日の状況と復興については、長期間現地を訪れることによって、現地の復興状況、特にまちづくりについての確認を行うことができた。さらに、震災で街が壊滅状態になった小浜・岩間地区でのNPO勿来まちづくりサポートネット(代表舘敬氏)の様々な復興支援活動は、学生にとっても貴重なお話で、大変勉強になったと同時に大きな感銘を受けた。


2014年

いわき合宿

いわき合宿

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2015年

いわき合宿

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2016年

いわき合宿

いわき合宿

さらに、東北地方の震災復興の象徴として活動したスパリゾートハワイアンズでは、震災直後の約600名の宿泊客を東京圏に無事に届けるため、18台のバスの確保や帰路の道路状況の確認など、昼夜を問わず尽力した状況をマネージャの野木薫氏から伺った。いわき市小浜・岩間地区視察のねらい いわき市勿来は、白川、根津と並ぶ日本三大奥州関の一つ。そのいわき市岩間地区では94世帯が被災。そのうち10世帯が同地域で住宅を建設。13世帯が高台移転(小原地区)約70世帯は地区外移転となり街が壊れた。震災から9年が経過し、復興公園も整備された一応落ち着いた感はある。しかし生活は厳しい、特に、原発による避難をしている人々の生活はいまだに安定していない。人々は不安の中で生活しており、その中でも少しずつ街が変わっていく姿を見た。


2017年

いわき合宿

いわき合宿

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2018年

いわき合宿

いわき合宿

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②      勿来まちづくりサポートセンターの講話のねらい

勿来まちづくりサポートセンターは、いわき市勿来地区で生まれ育った仲間の支援を目的に立ち上げられたNPOで、この活動が、勿来地区復興災害ボランティアセンターに発展させた。そこでは、行政よりも早く、各地からのボランティアの受け入れを行った。ボランティア希望者受入数は4300人。センターでまず取り組んだのは、区長等に協力を求めて地区の名簿作りを行った事。自治体は非常時にもかかわらず、名簿の開示を拒んだ。そこで、自分たちの力で作り上げ、全国からのボランティアを受け入れ、被災者とボランティアを繋ぐ、マッチングの重要性を語っていた。

勿来サポートセンターでは、復興モニュメントの構築、勿来の復興際など、勿来地区の復興活動を常にリードしてきた歴史があった。

毎年学生は、各自事前にテーマに沿った研究を行い、冊子を作成する。その中で疑問に思った点などを現地で調査し、さらに質問をし、活発な意見交換を行い、今日の復興及びまちづくりの課題を整理してきた。また、2020年はコロナ禍の中、宿泊はすべて個室とし、夕食の際にはソフトドリンクのみで短時間で終えた。


2019年

いわき合宿

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2020年

いわき合宿

いわき合宿

いわき合宿

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③ハワイアンズの被災と復興支援

翌日は、福島復興の象徴であるハワイアンズに伺った。常磐炭鉱閉山に伴う人員整理を少しでも食い止めるために、常磐ハワイアンセンターを作った。構想当時は、「福島でヤシが育つか」と揶揄にされたが、今日事業は軌道に乗った。街づくり新しい形であった。さらに、映画「フラガール」のヒットや東日本大震災時の全国行脚などで、スパリゾートハワイアンズとフラガールは、復興の象徴として全国にその名が知られた。

地震の2日後には、618人の宿泊客に対して、帰路の確保が不明のまま、大型バス18台を夜通しで調達し、11時間かけて東京へ到着し、多くの客から感謝の言葉をいただけたとの話には思わず胸が熱くなる思いを感じた。9年半の歳月は、地震による生活の格差を生み、確実に復興により歩みを進めている人がいる一方、いまだに一歩を踏み出せない人々がいて、被災地支援の難しさを感じた。

鏡ゼミケーススタディが福島県いわき市勿来地区を訪れて8年となった。確かに街は、変容し、道路や住宅は整備されてきた。しかし、以前の街とは異なり、賑わいは感じない。人々の息吹がかつてのように取り戻せたと感じるのは、いまだに点でしかない。

同時に、人々の関心は薄れ、震災や原発に影響された日々は段々と風化していくのかもしれない。しかし、東日本大震災があった事実、それによって人々の命が失われ、生活に大きな影響が出て、それが今も続いていることを決して忘れてはならないと感じる。

学生にとっては、舘さんや野木さんのお話を伺うたびに、多くの教訓を得ることができた。

最後に舘さんが「僕たちの勿来まちづくりサポートセンターの震災復興の活動は10年を区切りに終えようと考えている。これからは、本来のまちづくりの方に力を注いでいきたい。」とつぶやいたのが印象的であった。

しかし、いわき市にはいまだに双葉町の出張所が置かれ続けている・・・・。

いわき合宿

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