「体験する」ということ
‐‐ 先生の特別なこだわり。仕事の中でもいいんですけど、もっとパーソナルな部分のこだわりでもいいんですけど、何かありますか。
まあ仕事なんですけども、治療でもそうだしあるいは臨床の教育でもそうなんだけども、「体験する」っていうこと。五感で感じるっていうことは、大事にしてるつもりですね。ゼミのモットーっていうのがあって、「動いて、感じて、考えよう」。知識を得てからやってみようではなく、まあそれが普通だと思うんだけども、そうすると、頭でっかちになっちゃって、見落としてしまう。大事なものが感じられなくなっちゃうってことがある。「感じる」ってことはやっぱりすごく大事で、心理学って感じることを大事にしなければって思っていて、例えば、これね、ACTのワークで使ったりするんですけども、こっちはアドミッションに買ってもらった市販品なんですけども、こっちは院生が縫ってくれたんですね(お手玉)
‐‐ 手作りですか?
そう
‐‐ すごーい
触ってみて
一同: 失礼します
中に入っているものも違うんです。
‐‐ わたし幼稚園くらいの時に、おばあちゃんがあずき?紫いろっぽいやつでお手玉作ってくれたんです。これなかになにが入ってるんだろう気になる(笑)
一同 笑い
ねっ、触ると結構もう「あれっ」っていって引き込まれちゃって、「あれこれどう違うんだろうとか」そういうことが起きてきますよね。当然それは学生でもクライエントさんでも起きてくるわけなんだけれども、そういうのは実際自分で触って感じてみないと「あー、お手玉でしょ」って
‐‐ うん
考えだけで、思考だけで判断してしまうと、「なんだこれお手玉じゃん」で終わってしまうんだけども、触ってみると「えっこんな音するんだ」って
‐‐ うん
‐‐ すごいこれ全然違う音する!(笑)
それで触ってみることで、「あー!」って気が付くようなことがあるし、それが人によって違ってるし、感じてもらいかた、そして言葉にしてもらいかたの違いっていうのが本当に千差万別になってくるし、さっき言ってたそのセラピストも一人一人個性があるってことなんだけども、こういうのをどう感じて、あるいはどう体験してもらおうとするかってのも、本当千差万別なんですよね。理論としては、これはマインドフルネスのツールで、お手玉のマインドフルネスっていうエクササイズで、それで、見てみましょう、聞いてみましょう、触ってみましょう、っていうようないくつかの基本的なやり方はあるわけなんだけども、それを実際にやってみると、セラピストの役の人でも、微妙に違うことをやるわけだし、当然相手、実際体験するほうの人も違う体験しますよね。そういうことを一つ一つ積み重ねながら、臨床って覚えていくのかなと思っていて、そのためには道具もある程度こだわることが必要になってくるのかな。
‐‐ そうですよね。体で感じて、触れてみて、色々な捉え方を模索してみる
うん、だから理論で、言葉で書いてしまうと、それこそ教科書に書いてあるような、これを大事にしましょうとかこれをやってからこうしましょうみたいなことになるんだけども、実際は、やっぱり五感で感じて身体があって生きている。クライエントさんもそうだし僕らもそうだし、それでその人同士がやり取りするわけだからかなり違う体験になっていくんですよね。それを学生に教えていくときに、目に見えるあるいは明らかに体験として記憶に残るような体験をすると、学生の方もわかりやすいというか、実感があるので、そういう実感をとにかく体験してもらおうというようにやっています。
‐‐ うん
例えば3年のゼミも、特に前期は、二週にいっぺんはエクササイズをやって体験してもらう。もちろん体験しただけだと「なんだったんだろうね」ってことになって、大学のゼミにならないので(笑)それはこういうことだよって、研究の方でおさえてくってこともやってもらうんですけども、まず体験してみようと。つまり体験する前にいろいろ本で読んじゃって、言葉で説明しちゃってから体験すると、自分の枠組みの中でしか体験できなくなっちゃうので
‐‐ うん
まず自分の感性を信じて、体験してみて、その中でいろいろなうまくいかないこともあるし、疑問もでてくるし、不安に感じることもあるかもしれない。それってなんだろうかって、文献をじっくり読むと、ちょっと違う読み方ができるのかなって。
‐‐ なるほど
だから頭だけで読まない。身体と頭がちゃんとつながってるような、勉強の仕方、研究の仕方もそうだし、臨床の仕方もそうだし、あともっと言えば生き方もそうなのかなって
‐‐ うん
まあ実際には学部のゼミ出ても、8割9割の人は民間企業就職するわけですよね。まあ福祉施設にいく人もいるけども。そうすると心理臨床やってるってわけではないような人がかなり多いわけだけども、でも、なんかゼミで、ああいう仲間たちとこんなことやったよなっていう体験がどっかに残ってて、発展していってくれるといいなって思ってますけどね。
‐‐ まず体験する
‐‐ うん、先に体験してから勉強ってなると、多分興味とかも、普通に最初から教科書開いてみたいなのより、すごい面白く学べそうだなって思いますね。
ただし、ある程度枠がないと「何でこんなことやるんだ!」とか
‐‐ あははは
あと、出されたものですごく不安になっちゃうとか、そういう危険性もありますよね。だからリスクは当然あるので、ある程度の枠の中でやってくっていうことは、相当気を付けてやってますけどね。思わぬ反応をする人もいるので(笑)
‐‐ 思わぬ反応(笑)
それこそお手玉なんて出したら、いきなり投げつけちゃうなんてことも。幸いまだないですけど(笑)あり得るわけですよね
‐‐ あり得ますね(笑)
取り合いになっちゃうとかね。これ、投げてもらうってこともやってもらったりするんですよ。一人でいろいろ触ってみようって時は静かにいろいろ感じてみようってことでやってもらってるんだけども、じゃあまず自分で投げてみましょうってことでだと、小さい頃思い出して喜んでやるわけですよね。じゃあ二人でやり取りしてくださいってなると、急に雰囲気が変わってきて、やっぱり落としちゃ悪い、相手が取れるように投げなきゃって、とっても気を遣う人もいるし、あとは同じテンポでずーっとやり続ける人がいたり、一回一回投げ方を変えて、相手が取れるかどうかを楽しむ人もいて、だから5組くらい一緒に並行してやると、全然違うやり方をするわけですよ。しかも周りが見えなくなって二人の世界に入ってしまったりするわけですよね(笑)それで、はいストップって言って、今どうでした?どんな体験しました?っていうのをそれぞれ語ってもらうと、自分と他のペアが随分違うんだなとか、そんなこと感じる人もいるんだとか、わかりますよね。
‐‐ そうですよね、一人だけでは気付かないことも多いですよね
そうですね。
ゼミの同級生でもいろんな人と、それから先輩やら後輩やらっていろんな人とやってみてると、そこだけでも幅が出ますよね。そういう幅を持ってクライエントさんと関わると、柔軟な対応ができるっていうかな。「僕はこんな風に生きてるんだー!」って、それはとても良い生き方かもしれないんだけども、それだけでいきなりクライエントさんにお会いすると、合う場合にはすごく良いんだけども、当然合わない場合もあるし、合わないと、自分の能力がないんじゃないかって悩んじゃったりするわけだけども、その前にいろいろ幅を広げて、色々な体験を深めていってもらいたいですね。その時に目に見えて何をやったって、わかりやすいというのがうちのゼミの特徴ですかね。
‐‐ 日常、仕事以外で、何かこだわりってありますか?
こだわり?
‐‐そうですね(笑)普段生活している中で。
うーんどうでしょうね(笑)。僕はもともとはこだわる方なんですけども、まあ、自分なりに楽しめればいいやって。例えばお酒でいえばワインが好きなんですけど、でもワインってやっぱりきりがなくて、古いものとか貴重なものとかってすごい高かったりして、あと、高級な和牛とこのワインは合うとかってあるわけだけども、あんまりお金かけてっていう感じは僕はなくて、もっと庶民的な感じで、まあ普通に手の届くところで、今日の気分だったらこっちの方が合うだろうなとか、この料理だからこっちが合うよなとか、そういうのはそれなりに楽しめればいいのかなって(笑)
一同: (笑い)
身の丈で楽しめればいいのかなって。料理も作るんですけども、昔始めたころは割と、例えばシチューが好きなんですけども、じゃあシチューの肉はどういう肉でとか、煮込み方はどんなふうにしてとか、始めたころはそんな感じでこだわってたんですけど、まあ、素人がそうやってこだわっても大した違いはないなって(笑)
一同: あははは
少し年を重ねるとわかって来たんで、むしろ出会いを大事にするっていうかね、マーケットで、「今日はこのお肉が僕を呼んでる!」とか
‐‐ あははは
昔は肉の方が好きだったんですけど、最近歳のせいか魚も好きになってきて、新鮮な魚がそろってるスーパーで、今日はどんなのがいるかなって、「あっこいつは僕に食べられたがってる」とか(笑)
一同: あはははは
そんな感じで、じゃあこれに合うワインはとか、ソースをどうしようかとか、あと、家の子どもたちは割と好き嫌いが多いので、これは子どもは食べないな、じゃあ子どもにはこれにしとくかとか、そこまで組み合わせないといけないので、いろいろ判断しなければいけないことが多いので、まあそれはそれで大変っていえば大変なんだけど、楽しみではある。
‐‐ なんか楽しそう(笑)主婦みたいですね(笑)
そうですね(笑)
‐‐ 魚が僕を呼んでいるってうちのお母さんもよく言います(笑)
‐‐ 食へのこだわりは結構あるって感じます
食べるって五感で、見て楽しむ、聞いて楽しむ、触って楽しむ、味、香りを楽しむ。香りは好きですね。コーヒー、紅茶、ワインとかその辺は何でもいいっていうんじゃなくてこの店がいいとか、コーヒー屋さんとかでも行きつけになってその店ばっかりとかってこだわったりしますね。紅茶はダージリンが好きなので、今紅茶屋さんいっぱいできてて、いろんなブレンドのものをたくさん出してるんだけども、ダージリンって場所が限られてるから、あの農園のっていうと、それだけで買い占められて、高いんだけどね。まあそれは、コーヒーが普段は好きなんだけども、今は紅茶がいいなって時には千円以上もする紅茶を飲んだりはしてますね。
‐‐ へえー
まあそういう、さっき言ってた、一つ一つの体験を大事にするってことと、当然それが活きてるわけですから、食事もやっぱり五感ですよね。そしてそれをどんなふうに楽しむか。あと、運動はあまりしないんだけども、歩いたりすることは心がけていて、やっぱり歩いたりすると、体の方もいろんな感じがしてくるし、また歩けば、あそこの花が咲いたなとか、あそこで子どもがこうだなとか、いろいろ感じられるわけじゃないですか。そういうのを一つ一つ大事にしたいなっていうのはありますね。だから、一つのことにこだわってという感じではないかもしれないですね。
‐‐ なんかさっきの研究職の話を聞いてる時も、今のこだわりの話を聞いてる時も、千葉先生は柔軟なことを大事にする方だなって思いました。
あ、そうですか、ありがとうございます。
‐‐ 僕も思いました
実はACTでは柔軟性を大事にしていて、そういう話をしてないのに受け止めてもらえたっていうのはすごく嬉しいですね(笑)
‐‐ よかったー(笑)
‐‐ 今回はありがとうございました
こちらこそありがとうございました