コミュニティ政策学部の授業を覗いてみよう、シリーズ④「マスク配布政策を財政学で考えてみる」(担当:伊藤潤平助教)

 8月3日配信ブログ(https://www.shukutoku.ac.jp/extra/seisaku/blog/2020/08/post-338.html)に引き続き、1年生向け必修科目における、オムニバス形式の授業紹介です。第4回目は「マスク配布政策」についてです。
 新型コロナウイルスの感染拡大は,働き方にとどまらず普段の生活様式にまで変化を強いられ,人々の行動パターンに大きな制約を課すことになりました.現在,何をするにおいても様々な場面でコロナウイルスの弊害に直面し,自身の行動の是非に悩まされる状況に置かれています.学生の皆さんには,このような状況下だからこそ,逆境を糧とし,社会の変化にしっかりと向き合い,何が起こっていて,何が求められ,何をすべきかについて学び考える大切な機会にして欲しいと思います.
 1年次配当科目「コミュニティ研究Ⅰ」第6回授業では,本年4月1日に発表された布マスク2枚の全戸配布の是非について考えてもらいました.「アベノマスク」と揶揄されたこの政策は,各国政府が現金給付による国民への経済的支援を検討していたなかで,経済的支援に先んじて発出された緊急対応策であったこともあり,国内外から否定的に受け止められた向きがあります.しかし同時に,当時はマスクの供給が追い付かず品薄状態にあり,マスク不足が人々の感染リスクへの不安を喚起していたことも確かでしょう.

 あくまでマスクが他者への飛沫感染防止に十分効果があることが前提となりますが,経済学における「負の外部性」という考え方からマスクの効果を考察してみると,人々がマスクを購入・着用することの手間やわずらわしさといった負担(内部費用)を受け入れることは,周囲の人々に対する感染リスクを低下させ,感染がもたらす心身の不調や治療費の支払いあるいは死など,本来は被る必要のなかった負担(外部費用)を抑制することにつながると考えられます.政府は負の外部性のような「市場の失敗」を改善する役割を担っており,布マスクの配布という政策決定は,政府の役割からすれば,そこまで筋の通らないことでもないかもしれません.

 学生に布マスク配布の是非についてアンケートをとったところ,各種の世論調査と同様に,否定的な意見が多数を占めました.その理由としては,「マスクの到着が遅い」,「まずは困っている人々の経済的支援を優先すべき」といった意見が多く寄せられました.確かにマスクの全戸配布については,決定からその後の対応が迅速であったとはいえず,不良品の回収騒ぎまで生じたことは,政府のマスク供給企業への監視を怠ったことによってモラルハザードに似た問題が生じたと考えることができるでしょう.またマスク配布政策は,その後に緊急事態宣言の発令により他者との接触の機会が減少したことにより,政府が期待していたほど負の外部性を是正する効果は得られなかったかもしれません.そうした観点からは経済的支援を優先すべきという声は妥当なものでしょう.

 授業のねらいは①初学者にはいささかイメージのしづらい経済学という学問領域への理解を深めるために,身近な事例を通じて経済学的アプローチに触れてもらう,②今後の大学生活・社会人生活に必要となる課題発見のスキルや提案力を醸成するといったものでした.多くの学生が,本授業における問題提起に真剣に取り組み,自身の意見について根拠を示しながら提示してくれました.実社会に目を向け,自身の中にある問題意識に向き合うことで,多くの気づきを得られるよう,引き続き学びの機会を提供していきたいと思います.(文責:伊藤)

2021年10月

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